幻の花

幻の花 ~ 第六章   宮仕え小町

貞観七年(八六五年)秋十月、業平の兄、正四位下、在原行平の娘、在原文子に更衣の話が持ち上がった。行平は勿論のこと、在原家一族の者が文子の入内に期待した。その為、文子の付き人として、小野小町をと考え、行平が小町の母、文屋秋津の娘に相談し、内…

幻の花 ~ 第五章   交野小町

小野良実は二人の娘に、美貌であったが為に薄幸に終わった玉造小町の例を出し、お前たちも気を付けるようにと言って、都を去って行った。小町の一家は、父、良実だけを出羽に赴任させて、都から離れることをしなかった。それは出羽国がまだ蝦夷との戦いなど…

幻の花 ~ 第四章   玉造小町

貞観七年(八六五年)三月、小町の父、小野良実は出羽郡司に任ぜられた。良実はこの藤原権勢を気にしての朝廷の処遇に、心中、甚だ穏やかでなかった。彼にとって出羽は陸奥と併せた大国であり、他国の郡とは自ら趣きを異にしているとはいえ、一介の郡司とし…

幻の花 ~ 第三章   初恋小町

初恋の相手が誰かと問われた時、誰もが本当は誰だったのだろうかと、思い質すに違いない。小野小町の初恋の相手は、在原業平であるかもしてないと言ったが、それは上京した八歳の少女が初めて感じた素敵な男性という程度のもので、初恋とは言えないだろう。…

幻の花 ~ 第二章   南国小町

『古今和歌集』仮名序に於いて、紀貫之は小野小町をこう評している。 小野小町は、古への衣通姫の流れなり。 あはれなるようにて強からず、 いはば美き女の悩めるところあるに似たり。 強からぬは女の歌なればなるべし。 この小野小町の出生と状況について、…

幻の花 ~ 第一章   幻小町

『古今和歌集』を飾る美しい花の一つに小野小町がいる。その小野小町の生涯は謎に満ちている。その謎の花、小野小町について知り得る限り語ってみよう。 〇 小野小町は幻の花である。王朝に咲いた幻の花である。在原業平を胡蝶に譬えるならば、小町はまさに…