2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

幻の花 ~ 第二十九章 肥後の里小町

光孝天皇の仁和元年(八八五年)正月、九州に入った小町と鴨丸は、筑紫国の宗像に立ち寄り、宗像神社の一つ、辺津宮に初詣した。それから那津にある『筑紫館』を訪ね、そこに宿泊させてもらった。この館は、その昔、小野の先祖、小野妹子が、隋の使者、裴世…

幻の花 ~ 第二十八章 巡礼小町

元慶八年(八八四年)五月、石山寺を出発した小町は、途中、家来の雉丸の息子、鴨丸と合流し、諸国の仏閣霊場巡りを開始することにした。まずは自分の生まれた肥後国へ行ってみることにした。とはいえ、小町の肥後国への旅は、陸奥出羽の旅と異なり、従者が…

幻の花 ~ 第二十七章 出家小町

元慶七年(八八三年)正月二十三日、下出雲寺に於いて、紀有常の七回忌の追善供養が行われた。小町はその式に出席し、沢山の人たちと一緒に、貴い真静法師の法話を聴いた。真静法師は、まだうら若い二十一歳の導師であったが、その説法は立派なものであった…

幻の花 ~ 第二十六章 つれづれ小町 

元慶五年(八八一年)の正月は、昨年末の清和帝崩御により、何とも晴れ晴れしない年始となった。山科の小野の里の小町の屋敷も、召使の数が少なくなり、庭の雪かきもままならず、近づく人も減り、小町にはすることも無く、寂しく心細い日々の始まりとなった…

幻の花 ~ 第二十五章 溜息小町

元慶三年(八七九年)正月三日、清和帝の護持僧、真雅が遷化した。真雅は内裏に宿直し、幼年からの清和帝を護持し続けて来た。清和帝は自分を教育してくれた真雅を失って悲しみに暮れた。同じ正月七日、真雅同様、清和帝の教育指導に当たっていたことのある…

幻の花 ~ 第二十四章 愛執小町

元慶元年(八七七年)正月、陽成天皇の母、高子は皇太夫人となり、中宮職となった。流石の小町も、在原業平と堂々と恋をし、清和天皇の女御になった高子に呆れ返っていたが、いざ新天皇の母になり、中宮になったと知ると、そのしたたかさに感心した。自分も…

幻の花 ~ 第二十三章 夢追い小町

小野の里で、侘しく暮らす小町は、現在の自分の身の上を、浮草のようだと思いはしていても、自分の女としての魅力を信じて疑わなかった。そんな小町の所へ、かって小町がお仕えした在原文子が、清和天皇の皇子を産んだという知らせが入って来た。その話を聞…

幻の花 ~ 第二十二章 浮草小町

貞観十五年(八七三年)四月、小野小町は従五位下内匠頭、大江惟章に言い寄られた。大江惟章は在原業平の縁者であり、背が高いことから、小町は惟章と付き合った。蓮恵から、どうせ遊びだから、惟章と付き合うのは止めておけと言われたが、少しでも楽な暮ら…

幻の花 ~ 第二十一章 鬼姿小町

貞観十四年(八七二年)冬、姉、寵子のいなくなった小野の里は寂しかった。小町は憂鬱な気持ちを紛らわせる為、時々、随心院にある母の墓参りに足を運んだ。或る日のこと、僧、蓮恵が小町を見つけ、声をかけて来た。 「先祖を敬う貴女の功徳は、有難く大切な…

幻の花 ~ 第二十章  母恋小町

人康親王を失った哀しみの小町に、尚も不幸が襲いかかった。同じ月の五月十三日、小町の母、文屋秋津の娘、妙子が死去した。妙子の父、文屋秋津は、大納言、文屋浄三の孫で、参議にまで昇進し、第一回の検非違使別当に任じられた人であった。兄弟にも立派な…

幻の花~第十九章  四の宮小町

貞観十一年(八六九年)正月、在原業平は清々しい新年を迎えた。自分と高子の子供が、天皇になる日を夢想した。その子供、貞明親王は二月になると、藤原良房らの計らいにより、皇太子に立てられた。業平も何故にか、三月、正五位下を授かった。業平は何も知…